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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)144号 判決

アメリカ合衆国ペンシルバニア州ハリスバーグ、フレンドシップロード四七〇

原告

アムプ・インコーポレーテッド

右代表者

ジェイ・エル・サイチック

右訴訟代理人弁護士

山崎行造

名越秀夫

伊藤嘉奈子

右訴訟復代理人弁護士

日野修男

東京都渋谷区道玄坂一丁目二一番六号

被告

日本航空電子工業株式会社

右代表者代表取締役

廣田元男

右訴訟代理人弁護士

飯田秀郷

右訴訟復代理人弁護士

赤堀文信

右輔佐人弁理士

飯田幸郷

主文

一  被告は、別紙物件目録一記載の物品を製造、販売してはならない。

二  被告は、前項記載の物品を廃棄せよ。

三  被告は、第一項記載の物品の製造に必要な金型を廃棄せよ。

四  被告は原告に対し、五五六万七〇四八円、及び内金四五三万二九八一円に対する昭和六二年一月二二日から、内金六二万二七二二円に対する平成二年一月一日から、内金四一万一三四五円に対する平成四年四月一日から、支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

七  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録一ないし三記載の各物品を製造、販売してはならない。

二  被告は、前項記載の各物品を廃棄せよ。

三  被告は、第一項記載の各物品の製造に必要な金型を廃棄せよ。

四  被告は原告に対し、八八五万二一一八円、及び内金六九八万九八九三円に対する昭和六二年一月二二日から、内金一一二万二九九二円に対する平成二年一月一日から、内金七三万九二三三円に対する平成四年四月一日から、支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、後記の本件特許権を有する原告が、被告に対し、被告の製造販売する別紙物件目録一ないし三記載の各ハウジングが右特許発明(本件特許発明)にかかるモジュール形電気コネクタの生産にのみ使用する物であるとして、右各物件について、その製造販売の差止めを求めるとともに、損害賠償の支払いを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  本件特許権

(一) 原告は、次の特許権(本件特許権。本件判決添付の特許公報記載のとおり。)を有する。

(1) 特許番号 第一二三四四九八号

(2) 発明の名称 モジュール形電気コネクタ

(3) 出願日 昭和五二年八月三〇日

(4) 出願番号 特願昭五二-一〇三三〇〇号

(5) 優先権主張 一九七六年(昭和五一年)一〇月二三日

(6) 出願公告日 昭和五九年一月九日

(7) 登録日 昭和五九年一〇月一七日

(二) 本件特許発明につき特許出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲(本件特許請求の範囲)の項には、次のとおりの記載がある。

「両端部間に、各電気接触子を収容するための少くとも二個の腔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料ブロックを含有するモジュールから成る電気コネクタにして、該モジュールの前記両端部が類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置を具えたモジュール形電気コネクタにおいて、前記両端部における各腔8は、該腔8の幅のほぼ半分の幅まで延出する壁部19によって部分的に包囲されるように、該腔8の幅のほぼ半分の幅の開放スロット18を有し、前記両端部における腔8の前記半分幅の壁部19は前記モジュールの両側壁から内方に延出し、もって類似のモジュールの相補的部分と係合する時で、各モジュールの前記開放スロット18が相手方モジュールの前記半分幅の壁部19によって閉塞されることを特徴とするモジュール形電気コネクタ。」

(三) 本件特許発明の作用効果

本件特許発明の作用効果の特徴は、各モジュールを係合させて組み立てたモジュール形電気コネクタの長手方向寸法を、公知のそれよりもさらに小さくすることを可能とした点にある。

以前から、モジュール形電気コネクタの長手方向の寸法をより小さくすることが要請されてきたが、その場合、他方において、かかるコネクタの長手方向におけるすべての腔のピッチ、すなわち腔と腔との間隔を一定に保持する必要があった。そこで、これらの要請の下に、従来のモジュール形電気コネクタにおいては、たとえば、各モジュールの両端部における壁の長手方向厚さがモジュール内の壁、すなわち中間壁の長手方向の厚さの半分となるように相補的に形成されたものもあった。しかしながら、このようなコネクタの長手方向の寸法をさらに小さくするためには長手方向の壁厚をさらに薄くする必要があり、その場合、中間壁の長手方向の厚さの半分である両端部の壁厚をさらに薄くすることは、成形材料の流れ特性、破損の防止及び絶縁性の保持の点で限界があった。

これに対し、本件特許発明では、モジュールの両端部における腔に開放スロットを設け、相手方モジュールの壁部により開放スロットが閉塞されるよう各モジュールを係合させたため、右の如き限界の問題をすべて回避しながら、公知のモジュール形電気コネクタの長手方向の寸法をさらに小さくすることを可能としたものである。

2  被告製品

被告は、別紙物件目録一ないし三記載の各物件を業として製造、販売している(以下、同目録一記載の物件を「ミドルハウジング」、同目録二記載の物品を「ライトハウジング」、同目録三記載の物件を「レフトハウジング」という。なお、以下、同目録一ないし三記載の各物件を総称して単に「被告製品」、同目録二及び三記載の各物件を総称して「端部ハウジング」ということがある。)。

3  本件特許発明の構成要件

本件特許発明の構成要件はこれを分説すると、次のとおりである(番号は願書に添付された図面における番号である。なお、以下、後記(一)の構成要件を「構成要件(一)」と表示し、他の各要件についても同様に表示する。)。

(一) 両端部間に、各電気接触子を収容するための少なくとも二個の腔8を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料ブロックを含有するモジュールから成る電気コネクタであること。

(二) 該モジュールの前記両端部が類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置10及び11を具えていること。

(三) 該モジュールの両端部における各腔8は、該腔8の幅のほぼ半分の幅まで延出する壁部19によって部分的に包囲されるように、該腔8の幅のほぼ半分の幅の開放スロット18を有すること。

(四) 該モジュールの両端部における腔8を部分的に包囲する壁部19は、モジュールの両側壁から内方に延出していること。

(五) 類似のモジュールの相補的部分と係合することにより、モジュールの開放スロット18が相手方モジュールの壁部19によって閉塞されること。

(六) モジュール形電気コネクタであること。

4  被告モジュール形電気コネクタの構成

被告製品によって構成されるモジュール形電気コネクタは、ライトハウジングとレフトハウジングとを少なくともその両端部に必ず有し、ミドルハウジングを一つ以上ライトハウジングとレフトハウジングの中間部に有することのできるモジュール形電気コネクタであり、その構成は次のとおりである(以下、右モジュール形電気コネクタを「被告モジュール形電気コネクタ」といい、後記(一)の構成を「被告モジュール形電気コネクタによる構成(一)」と表示することとし、他の各構成についても同様に表示する。)。

(一) 両端部(以下、モジュールにおける端部とはモジュールの長手方向における端部をいう。)間に、各電気接触子を収容するための二個、三個、四個又は八個の孔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料から成るモジュールにより構成される電気コネクタであること。

(二)(1) (一)項記載のモジュールのうちその一種であるミドルハウジングは、その両端部にミドルハウジング、ライトハウジング又はレフトハウジングの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置10’及び11’を具えていること。

(2) (一)項記載のモジュールのうちその一種であるライトハウジングは、その一端部にミドルハウジング又はレフトハウジングの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置11’を具え、その他端部にコネクタ枠の案内スロット13’に受承される部分12’を有すること。

(3) (一)項記載のモジュールのうちその一種であるレフトハウジングは、その一端部にミドルハウジング又はライトハウジングの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置10’を具え、その他端部にコネクタ枠の案内スロット13’に受承される部分12’を有すること。

(三)(1) ミドルハウジングの一端部における孔8’は、当該孔8’の幅のほぼ三分の一の幅まで延出する壁部19’によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20’の手前まで開口する当該孔8’の全長と同一の長さでかつ孔8’の幅のほぼ三分の二の幅の開放スロット18’を有し、該孔8’の下端部に隣接する下方部分は壁部24’により完全に包囲されるように閉塞されており、その他端部における孔8’は、当該孔8’の幅のほぼ三分の二の幅まで延出する壁部23’によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20’の手前まで開口する、当該8’の全長と同一の長さでかつ孔8’の幅のほぼ三分の一の幅の開放スロット22’を有し、該孔8’下端部に隣接する下方部分は壁部24’により完全に包囲されるように閉塞されていること。

(2) ライトハウジングの一端部における孔8’は、当該孔8’の幅のほぼ三分の一の幅まで延出する壁部19’によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20’の手前まで開口する当該孔8’の全長と同一の長さでかつ孔8’の幅のほぼ三分の二の幅の開放スロット18’を有し、該孔8’の下端部に隣接する下方部分は壁部24’により完全に包囲されるように閉塞されていること。

(3) レフトハウジングの一端部における孔8’は、当該孔8’の幅のほぼ三分の二の幅まで延出する壁部23’によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20’の手前まで開口する当該孔8’の全長と同一の長さでかつ孔8’の幅のほぼ三分の一の幅の開放スロット22’を有し、該孔、8’の下端部に隣接する下方部分は壁部24’により完全に包囲されるように閉塞されていること。

(四)(1) ミドルハウジングの両端部における孔8’を部分的に包囲する壁部19’及び23’は、当該モジュールの両側壁から内方に延出していること。

(2) ライトハウジングの一端部における孔8’を部分的に包囲する壁部19’は、当該モジュールの側壁から内方に延出していること。

(3) レフトハウジングの一端部における孔8’を部分的に包囲する壁部23’は、当該モジュールの側壁から内方に延出していること。

(五)(1) ミドルハウジングの一端部は、ミドルハウジング又はレフトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロット18’が相手方モジュールの前記のほぼ三分の二の幅の壁部23’によって閉塞され、その他端部は、ミドルハウジング又はライトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロット22’が相手方モジュールの前記のほぼ三分の一の幅の壁部19’によって閉塞されること。

(2) ライトハウジングの一端部は、ミドルハウジング又はレフトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロット18’が相手方モジュールの前記のほぼ三分の二の幅の壁部23’によって閉塞されること。

(3) レフトハウジングの一端部は、ミドルハウジング又はライトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロット22’が相手方モジュールの前記のほぼ三分の一の幅の壁部19’によって閉塞されること。

(六) モジュール形電気コネクタであること。

5  本件構成要件と被告モジュール形電気コネクタとの対比

(一) 構成要件(一)と被告モジュール形電気コネクタによる構成(一)とを対比すると、被告製品の孔数二個、三個、四個及び八個は、いずれも「二個以上」の概念に含まれ、被告モジュール形電気コネクタによる構成(一)は構成要件(一)に包含される。

(二) 構成要件(二)と被告モジュール形電気コネクタによる構成(二)(1)は、その構成が同一である。

(三) 構成要件(四)と被告モジュール形電気コネクタによる構成(四)(1)は、その構成が同一である。

(四) 構成要件(五)と被告モジュール形電気コネクタによる構成(五)(1)は、その構成が同一である。

(五) 構成要件(六)と被告モジュール形電気コネクタによる構成(六)は、その構成が同一である。

6  補償金請求(特許法六五条の三第一項)の手続の履践

原告は、本件特許出願が公開された昭和五三年五月一六日より後である昭和五六年七月九日、被告に対し、書面にて警告を行うとともに、本件特許出願の公開公報及び昭和五六年六月一九日付けの手続補正書の各写しを送付し、右文書は、被告に対し、いずれも昭和五六年七月一〇日に送達された。

7  被告製品の売上高

被告製品の売上金額は別表「被告製品の売上状況」に記載のとおりであり、その内訳は以下のとおりとなる。

(一) ミドルハウジングの売上高

(1) 昭和五六年七月一一日から昭和六二年一月八日まで

四〇六五万九六二三円

(2) 昭和六二年一月九日から平成元年一二月三一日まで

一二四五万四四四八円

(3) 平成二年一月一日から平成四年三月三一日まで

八二二万六九〇〇円

(二) ライトハウジングとレフトハウジングの売上高

(1) 昭和五六年七月一一日から昭和六二年一月八日まで

三九一三万八二四四円

(2) 昭和六二年一月九日から平成元年一二月三一日まで

一〇〇〇万五三九七円

(3) 平成二年一月一日から平成四年三月三一日まで

六五五万七七六〇円

三  争点

1  被告モジュール形電気コネクタを構成するモジュールが、構成要件(一)ないし(五)を充足するか否か。

具体的には、

(一) 被告製品全部について

(1) 被告製品の孔8’は、構成要件(三)の「腔8」に当たるか(構成要件(三)の「腔8」は、モジュールの全長にわたって存在する必要があるか。)。

(2) 被告製品の壁部19’(23’)の幅及び開放スロット18’(22’)の幅は、孔8’の「ほぼ半分の幅」(構成要件(三))といえるか。

(二) 端部ハウジングについて

(1) モジュールの一端部のみ相補的係合装置を具え、他端部には具えていない端部ハウジングは、構成要件(二)ないし(五)、殊に構成要件(二)の「該モジュールの前記両端部」の要件を充足するか。

(2) 右「両端部」を「一端部」と置換することが可能か(均等論の適用があるか)。

(三) 本件特許発明にかかるモジュール形電気コネクタは、構成要件(一)ないし(五)の特徴をすべて具備したモジュールのみによって構成されなければならないか。

2  ミドルハウジング、ライトハウジング又はレフトハウジングは、被告モジュール形電気コネクタの生産にのみ使用されるものか否か。

3  損害額

(一) 本件特許発明の実施料率

(二) 弁護士費用相当額

四  右争点に関する当事者の主張の要旨

1  争点1(一)(1)(構成要件(三)の「腔8」)について

(一) 原告

構成要件(三)の「腔8」とは電気接触子受承用の腔を意味するものである。すなわち、「腔8」とは電気接触子を挿入する入口部から同接触子の挿入を停止させる肩部までをその全長とする電気接触子受承腔のことであり、コネクタ枠に具えられた端子柱を右受承腔内の電気接触子に挿入するために設けられた端子柱入口部から右受承腔の下端部まで通じる小さな孔を含むものではない。

被告モジュール形電気コネクタによる構成(三)(1)の「孔8’」も電気接触子受承用の孔であるから、この孔は、コネクタ枠に具えられた端子柱を右受承孔内の電気接触子に挿入するために設けられた端子柱入口部から右受承孔の下端部まで通じる小さな孔を含むものではない。

なお、被告モジュール形電気コネクタによる構成(三)(1)のミドルハウジングの両端部における孔8’の下端部に隣接する下方部分は、いずれも壁部24’により完全に包囲されるように閉塞されているが、この構成は本件特許発明の構成要件には全く関係がないものである。

(二) 被告

構成要件(三)の「腔8」はモジュールの全長にわたって存在する必要があると解すべきである。すなわち、本件特許発明は、モジュールの両端部に開放スロットと壁部を設け、これを類似のモジュールの同様の端部と相補的に組み合わせることにより、モジュール形電気コネクタの長手方向の寸法を小さくするという技術的課題の解決手段としたものであるが、仮に、スロット18及び壁部19がモジュールの全長にわたって存在しないときは、本件特許発明の明細書には、スロット18が存在しない場合の処置についての記載がないから、その場合の技術的課題解決手段が示されない限り、発明として完成しないものといわなければならない。スロット18が存在しない部分は壁部を形成し、相手方モジュールの同様の壁部とは相補的に係合せず、当該壁部の重なりは中間壁の壁厚よりも大きくなるから、これについては別の技術解決手段が必要になるからである。したがって、本件特許発明が未完成となる不合理を解消するには、スロット18及び壁部19がモジュールの全長にわたって存在しなければならないと解すべきである。

このことは、本件特許発明の出願当初の明細書(当初明細書。甲第四号証。)に、腔8がモジュールの全長にわたり存在することを示す旨の記載があることや、昭和五六年四月一〇日付けの手続補正書(甲第九号証)により明細書が訂正されたときも、右腔8がモジュールの下端部までに及ぶものとする旨の記載が挿入されたことからも示されているといわなければならない。

原告は、「腔8」は電気接触子の挿入する入口部から挿入を停止させる肩部までをいうとするが、本件特許発明の明細書には肩部についての記載はなく、そのように解する理由はない。また、本件特許発明はモジュールの肩部から端子柱入口部までの部分における端部の組合せ方法が開示されていないことになり、未完成となる。

被告製品における孔8’は、電気接触子の挿入する入口部から挿入を停止させる肩部までをその全長とするもので、前記「腔8」の一部を構成するにすぎないから、構成要件(三)を充足しない。

2  争点1(一)(2)(構成要件(三)の「ほぼ半分の幅」)について

(一) 原告

(1) 構成要件(三)によれば、モジュールの両端部の「壁部19」は、腔8の幅の「ほぼ半分の幅」であるとされているが、文言上においても、「半分」の幅に限定されていないことは明らかである。本件特許発明においては、この寸法は、発明の詳細な説明にあるように、各モジュールの受承腔内に電気接触子を収納させたときに該接触子が該腔内に安全に保持される程度の幅を意味する。

これに対し、被告モジュール形電気コネクタによる構成(三)(1)のミドルハウジングの一端部にある壁部19’は孔8’の幅のほぼ三分の一であり、同ミドルハウジングの他端部にある壁部23’は孔8’の幅のほぼ三分の二の幅であり、被告製品にあっても、電気接触子は受承孔内に安全に保持されうるものであるから、被告製品は構成要件(三)の「ほぼ半分の幅」であるというべきである。

(2) 構成要件(三)によれば、モジュールの両端部の「開放スロット18」は、腔8の幅の「ほぼ半分の幅」であるとされている。

しかしながら、開放スロットは、いずれも係合されたうえ相手方モジュールの各壁部によって閉塞されるものであるから、その幅は係合されるこれら相手方モジュールの壁部の幅と同一でなければならない。したがって、構成要件(三)の壁部19に対応する開放スロット18の「ほぼ半分の幅」の意味に、ほぼ三分の一又はほぼ三分の二の幅が含まれるというべきである。

被告モジュール形電気コネクタによる構成(三)(1)のミドルハウジングの一端部にある開放スロット18’は孔8’の幅のほぼ三分の二の幅であり、ミドルハウジングの他端部にある開放スロット22’は孔8’の幅のほぼ三分の一の幅であって、係合される相手方モジュールの壁部19’又は23’によって閉塞されるものであるから、被告モジュール形電気コネクタによる構成(三)(1)のミドルハウジングの開放スロット18’及び22’はいずれも構成要件(三)の「ほぼ半分の幅」の開放スロットに含まれるというべきである。

(二) 被告

構成要件(三)には、「ほぼ半分の幅」とあり、厳密に半分の幅に限定されるものではないにしても、構成要件として掲げられている以上、無視されるべきものではなく、製造工程上の誤差程度のものをいうと解すべきであり、半分としての〇・五に誤差をプラスマイナス一〇%程度考慮した〇・四五から〇・五五の範囲をいうと解される。

被告製品における開放スロット及び壁部の幅は、孔8’の「三分の一」又は「三分の二」であるから、右の範囲にはなく、「ほぼ半分の幅」には到底含まれないといわなければならない。

3  争点1(二)(1)(端部ハウジングと構成要件(二)ないし(五))について

(一) 原告

端部ハウジングは、被告モジュール形電気コネクタの両端に位置するモジュールであるため、それぞれその一端部にのみコネクタ枠の案内スロットに受承される部分12’を有している点でミドルハウジングとは異なるが、他の構成については基本的にミドルハウジングと同一である。

端部ハウジングと、ミドルハウジングとの相違する部分については、一見、本件特許発明の構成要件を具備しないようであるが、構成要件(二)に「該モジュールの前記両端部」とあるのは、当時の技術水準、技術常識を参酌すると、「該モジュールの、他のモジュールとの係合固定が問題となる端部」をいうと解すべきである。出願当時の技術水準、技術常識を参酌すると、類似のモジュールと係合固定することが存在しえない両端部のモジュールにおいて相補的係合部分を有することは要しないと解するのが合理的であり、当業者の理解としても相当であるからである。

これを敷衍して述べると、構成要件(一)と(二)は、「・・・において」なる語により締め括られる、特許請求の範囲のいわゆる「前提部分」ないし「導入部分」であり、構成要件(三)以下はいわゆる「特徴部分」であって、この両者の間には、特許請求の範囲の解釈に当たっては、右前提部分が出願当時の技術的水準を簡潔に述べたものであることを右構成要件の解釈においても参酌すべきである。すなわち、本件特許出願当時、いくつかのモジュールを長手方向に相互にスナップ係合し又は相互に固定して形成されるモジュール形電気コネクタが公知であり、かかるモジュール形電気コネクタは複数個のモジュールを組み合わせていたのであり、かかるコネクタには、モジュールを他の類似のモジュールと相補的にスナップ係合させて組み立てるようになっているものもあった。そして、かかるモジュール形電気コネクタにおいては、その中間部に位置するモジュール(中間モジュール)は、それぞれモジュールの両端部において他のモジュールに係合固定されるのに対し、その両端部に位置するモジュール(端部モジュール)にあっては、その一端部(外側端部)は電気コネクタ自体の端部に位置するから他のモジュールとの係合固定は問題にならず、他端部のみ他のモジュールと係合固定されることになる。このことは、当時の技術水準に照らして当然のことであり、本件特許発明のモジュール形電気コネクタもかかるコネクタに属するのであるから、右構成要件(二)の解釈においてもこれを参酌すべきである。特に、モジュールの相補的係合装置は、類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するために存在するものであり、類似のモジュールがないところではかかる係合装置を設ける意味がないのであるから、特許請求の範囲の記載中の前提部分に「該モジュールの前記両端部」とあるのは、「該モジュールの、他のモジュールとの係合固定が問題となる端部」をいうと解すべきである。

したがって、被告モジュール形電気コネクタにおいて、かかる類似のモジュールと係合固定することが存在しえない端部ハウジングにあっては、その両端部において相補的係合装置を有することは要しないと解するのが合理的であり、当業者の理解としても相当である。

被告は、本件特許請求の範囲の文言によれば、モジュール形電気コネクタを構成するすべてのモジュールの両端部において、他のモジュールとの相補的部分、すなわち、相補的係合装置や腔の幅のほぼ半分の壁部や開放スロットを有していなければならないとし、端部ハウジングはモジュールの一端部においてしか他のモジュールとの相補的部分を有しないから、構成要件(二)等の要件を充足していない旨主張するが、かかる解釈は、非現実的かつ非実際的であって、樹をみて森を見ない類の極端な文理解釈というべきであり、甚だ不合理かつ不当な解釈といわなければならない。

(二) 被告

本件特許請求の範囲によれば、本件特許発明にかかるモジュール形電気コネクタを構成するモジュールは、全てその両端部において、他のモジュールとの相補的部分、すなわち、相補的係合装置や腔の幅のほぼ半分の壁部や開放スロットを有していなければならないことが明らかである。被告モジュール形電気コネクタを構成する端部ハウジングは、モジュールの一端部においてしか他のモジュールとの相補的部分を有しないから、構成要件(二)等の要件を充足していないことは明白であるといわなければならない。

4  争点1(二)(2)(均等論)について

(一) 原告

仮に、右3(一)の主張が認められないとしても、構成要件(二)ないし(四)の「該モジュール」の「両端部」の箇所を「一端部」とそれぞれ置き換えても、本件特許発明と効果作用を同じくする。また、モジュール形電気コネクタをコネクタ枠に係合させるには、モジュールの一端部がコネクタ枠に直接係合するモジュールの存在が不可欠であり、当該モジュールが一端部にしか相補的係合装置を有しないものであることは、出願時における当業者が容易に推考しうるところである。

したがって、本件においては、端部ハウジングは、それ自体が本件特許発明の構成要件を充足しない別の構成を有するとしても、置換可能性、置換容易性の各要件を満たしているから、本件特許発明と均等というべきであり、本件特許権を侵害するものというべきである。

(二) 被告

本件特許発明の構成要件における「両端部」の要件を「一端部」に置換すると、そのような構成のモジュール二個のみで電気コネクタが完成しうることとなる。しかし、この場合には、これに他のモジュールを係合させたり、三個以上のモジュールを使用する電気コネクタを完成することができなくなるのであり、芯数を自由に選択できるというモジュール形電気コネクタの重要な効果を得ることができなくなるから、このような二個のモジュールのみからなる電気コネクタの作用効果は本件特許発明の作用効果と同一であるということはできない。

また、原告主張のように「両端部」を「一端部」に置き換えると、構成要件(二)ないし(四)の一部を削除することになるのであり、このような構成要件の削除は均等論における置換に該当しないというべきであるのみならず、置換後の構成は、本件特許発明におけるモジュールが類似のモジュールとその両端部において相補的であるという作用効果をその一端部において奏することができないのであるから、置換可能性はないものといわなければならない。

5  争点1(三)(コネクタを構成するモジュール)について

(一) 原告

ミドルハウジングは、両端部に相補的係合装置を有するモジュールであって、本件特許発明の構成要件にいう「モジュール」に該当することは明らかであるから、ミドルハウジングを一つ以上中間部に有し、ライトハウジング及びレフトハウジングをその両端部に有する構成のモジュール形電気コネクタが、本件特許発明の技術的範囲に属することは明らかである。

(二) 被告

本件特許請求の範囲に記載されたモジュール形電気コネクタは、各モジュールを組み合わせて完成するものであり、そのモジュールは構成要件(一)ないし(五)の各特徴を有するものでなければならない。すなわち、本件特許発明にいうモジュール形電気コネクタは右のような特徴を備えたモジュールのみによって構成されていなければならないのである。構成要件(二)の「該モジュール」とは、モジュール形電気コネクタを構成するモジュール全部を指していると解すべきであり、「該モジュール」はすべて右のような特徴を備えていなければならない。

ところで、本件明細書には、実施例として、両端に位置する端部モジュールが記載されており、端部モジュールと中間に位置する中間モジュールとの組合せによるモジュール形電気コネクタが示されているが、右実施例の記載は、本件特許請求の範囲の記載とは食い違いがあることになる。このように特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との間に齟齬がある場合は、請求の範囲に記載された発明について容易にその実施をすることができる程度に記載した明細書でないことになりかねない。そのうえ、特許発明の技術的範囲は明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり(特許法七〇条一項)、その解釈において明細書の実施例の記載が参酌されることがあるにしても、実施例の記載から請求の範囲の記載を拡張することは許されないといわなければならない。特許権者が自ら作り出した瑕疵によって利益を得ることになり不当な結果となるからである。したがって、本件特許発明においては、その請求の範囲の記載に従い、構成要件(二)の「該モジュール」は、構成要件(一)ないし(五)の各特徴をすべて有するものでなければならないと解さなければならない。

被告モジュール形電気コネクタは、ライトハウジング及びレフトハウジングを少なくともその両端部に有し、その中間部にミドルハウジングを一つ以上有することにより完成するものであり、ライトハウジング及びレフトハウジングが、一端部にしか相補的係合装置を有しておらず、本件特許発明の構成要件(二)ないし(五)の各要件を充足しないことは明白であるから、被告モジュール形電気コネクタが本件特許発明の技術的範囲に属しないものであることは明らかである。

6  争点2(間接侵害)について

(一) 原告

(1) ミドルハウジングのみならず、端部ハウジングも本件特許発明の構成要件の「該モジュール」に該当することは前記のとおりであり、これらは被告モジュール形電気コネクタの生産のためのみに使用されるのであるから、これを製造販売する行為がいわゆる間接侵害を構成することは明らかである。

(2) 仮に右(1)が認められないとしても、少なくともミドルハウジングが本件特許発明の構成要件の「該モジュール」に該当することは前記のとおりであり、ミドルハウジングは被告モジュール形電気コネクタの生産のためのみに使用されるのであるから、これを製造販売する行為がいわゆる間接侵害を構成することは明らかである。

(二) 被告

(1) 被告モジュール形電気コネクタが本件特許発明の構成要件を充足しないことは前記のとおりであるから、被告モジュール形電気コネクタが本件特許発明の技術的範囲に属しない以上、その被告モジュール形電気コネクタの生産のために使用されるライトハウジング及びレフトハウジングはもちろんのこと、ミドルハウジングについても、これを製造販売する行為がいわゆる間接侵害を構成することはありえない。

(2) 被告製品においては、必ずしもミドルハウジングを組み合わせることなく、ライトハウジングとレフトハウジングのみによって構成するモジュール形電気コネクタを形成することは可能であり、この意味においても、ミドルハウジングを一つ以上使用することを必須とする被告モジュール形電気コネクタの生産にのみ使用されるものであるとはいえないものである。

7  争点3(損害額)について

(一) 原告

(1) 実施料率

本件特許発明の実施に対し、通常受けるべき金銭の額(実施料)は実施により販売される製品の売価の少なくとも五パーセントに相当するものというべきである。

(2) 弁護士費用

本件は特許権侵害という特殊な分野の法律問題を含む専門的な事件であり、相当長期間を要しているうえ、原告は外国法人であるから、本件については、法律の専門家たる弁護士に依頼しなければ解決困難であるだけでなく、原告と原告代理人間の連絡等において、提出された書類の英訳を要するなど多大の労力と費用を要しているから、これらを勘案すると、弁護士報酬額は金三〇〇万円が相当であり、右費用は相当因果関係の範囲内にある損害である。

(二) 被告

原告の右(一)の主張はすべて争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1(一)(構成要件(三)の「腔8」及び「ほぼ半分の幅」)について

1  被告製品を示すものとして当事者間に争いのない別紙物件目録一ないし三、甲第八号証及び弁論の全趣旨によれば、ミドルハウジングはモジュールの両端部にある孔8’が壁部19’又は壁部23’により部分的に包囲されるように開放スロット18’又は開放スロット22’を有し、ライトハウジングはモジュールの一端部にある孔8’が壁部19’及び開放スロット18’により部分的に包囲されるように開放スロット18’を有し、レフトハウジングはモジュールの一端部にある孔8’が壁部23’により部分的に包囲されるように開放スロット22’を有していること、被告製品においてはいずれも孔8’の下端部に隣接する下方部分が壁部24’により完全に包囲されるように閉塞されていること、被告製品における孔8’は、電気接触子を挿入する入口部から同接触子の挿入を停止する肩部までをその全長とするものであることが認められる。

2  そこで、被告製品の右のような構成を有する「孔8’」が構成要件(三)の「腔8」に該当するか否か、すなわち、構成要件(三)の「腔8」は、モジュールの全長にわたって存在する必要があるか否かについて、判断する。

本件特許請求の範囲には、「両端部間に、各電気接触子を収容するための少なくとも二個の腔8を有する」と記載されて、腔8が電気接触子を受承するための腔であることが明らかであるから、この記載のみから腔8がモジュールの全長にわたって存在する必要のないことが明らかであるが、また、本件明細書の発明の詳細な説明にも「前記腔8は下端に肩部21を具えて該腔8への前記接触子9の挿入を停止させる。」(本件公報4欄10ないし12行)、「各コネクタ・モジュール4、5、6、7は少くとも二個の接触子受承腔8を有し、該腔は公知の方法で前記接触子9を取外し可能に受承しうる。」(4欄13ないし15行)、「上述の実施例においては、スロット18が腔8の全長を超えて端子柱入口部20に連通するように図示されているが、該入口部近くで終るように形成されうることは容易に理解されよう。」(6欄2ないし5行)と記載されているのであるから、「腔8」が、電気接触子を受承するための腔であって、その下端は肩部21までであり、モジュールの全長にわたって存在する必要がないことが明らかである。

そして、前記のとおり、被告製品においては、「孔8’」は、その入口部から電気接触子が挿入されたうえ、その下端部に隣接する閉塞された下方部分によって同接触子の挿入が停止するものであって、電気接触子を受承するための腔であるから、被告製品の「孔8’」は、構成要件(三)の「腔8」に該当するものというべきである。

被告は、当初明細書に、腔8(腔(8))がモジュールの全長にわたり存在することを示す旨の記載があるとし、昭和五六年四月一〇日付けの手続補正書にも、腔8(腔(8))がモジュールの下端部までに及ぶものとする旨の記載があったことから、構成要件(三)の「腔8」はモジュールの全長にわたって存在する必要があると解すべきである旨主張する。なるほど、甲第四及び第九号証によれば、被告主張のように、当初明細書には、その特許請求の範囲として「前記腔(8)の全長に亘って延在する開放スロット(18)を有し」等の記載があり、昭和五六年四月一〇日付けの手続補正書には「上述の実施例においては、スロット(18)が腔(8)の全長に亘って延在するものとして説明したが、」との記載のあることが認められるが、他方、右各証拠によれば、本件特許発明の願書に添付された図面(第一、第二図)には、当初から開放スロット(18)は下端部付近において接触子の挿入を停止させる肩部が示されており、また、右手続補正書には、右記載部分に引き続いて「腔(8)はその全長に亘るスロット(18)を具える必要はなく、例えばモジュールの下端部近くで終るようにスロット(18)を形成しうることは容易に理解できよう。」と記載されているのであるから、当初明細書及び右手続補正書の各記載のみでは、被告の主張のように、「腔8」がモジュールの全長にわたって存在する必要があるとは認めることができない。それのみならず、昭和五六年四月一〇日付けの手続補正の後も、同年六月一九日付けで手続補正がなされているが(甲第五号証)、これらの手続補正は、いずれも出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前になされたものであり、また、発明の要旨を変更するものでもないから、本件特許請求の範囲の記載を解釈するについては、公告時の明細書及びこれに添付された図面の記載に基づいて考慮すれば足りるものである。

また、被告は、モジュールの肩部から端子柱入口部までの部分にスロットの存在しない部分がある場合、相補的組合せを可能にする具体的手段が開示されていない旨主張する。なるほど、本件明細書には、その場合の手段が開示されていないことは明らかである。しかしながら、本件明細書によれば、本件特許発明は、モジュールの両端部における電気接触子受承用腔の壁を従来例のように長手方向に相補的に形成しないで、幅方向に相補的に形成することによりその壁厚を成形限界にまで薄く形成できるようにすることをその要旨とするものであることが認められる。そして、電気接触子受承用腔の壁より壁厚を厚く形成しうる肩部から端子柱入口部にわたる部分においては、従来例のように長手方向に相補的に組み合わせるなどの手段を取りうることは、本件明細書の発明の詳細な説明の「実公昭五〇-四七〇五号は、各コネクタの両端部における壁をそれらの長手方向厚さが該コネクタ内の壁、すなわち中間壁の長手方向厚さの半分となるように長手方向に相補的に形成したコネクタを開示している。」(本件公報2欄16ないし20行)、「コネクタの長手方向の寸法をさらに小さくするためには、長手方向の壁厚をさらに薄くする必要がある。しかしながら、中間壁の長手方向厚さの半分である両端部の壁厚をさらに薄くすることは・・・限界がある。」(公報2欄21ないし26行)との従来技術の欠陥に関する記載に照らしても明らかというべきであり、実施例として具体的に記載するまでもないと考えられる。したがって、モジュールの肩部から端子柱入口部までの部分にスロットの存在しない部分がある場合、相補的組合せを可能にする具体的手段が開示されていないとしても、従来例の記載等から、この場合の相補的組合せ手段は適宜実施しうる程度のことというべきであるから、被告の前記主張は採用することができない。

3  次に、被告製品の壁部及び開放スロットの幅は、構成要件(三)の「ほぼ半分の幅」の要件を充足しているか否かについて判断する。

本件特許請求の範囲においては、壁部19及び開放スロット18の幅は、いずれも腔8の幅の「ほぼ半分の幅」とされているが、「半分」の語の前に「ほぼ」が付された意味等、その具体的内容が明らかでないので、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、本件特許発明の利点について「本発明は、コネクタの両端部の壁を前記公知のコネクタのように長手方向に相補的に形成する代りに、幅方向に相補的に形成することによって、コネクタの長手方向寸法を前記公知のコネクタに比較してかなり小さくなしうる利点を有する。」(公報3欄5ないし10行)と記載されたうえ、開放スロットと壁部との関係について「前記両端部における各腔は、該腔の幅のほぼ半分の幅まで延出する壁部によって部分的に包囲されるように、該腔の幅のほぼ半分の幅の開放スロットを有し、前記両端部における腔の前記半分幅の壁部は前記モジュールの両側壁から内方に延出し、もって類似のモジュールの相補的部分と係合する時に、各モジュールの前記開放スロットが相手方モジュールの前記半分幅の壁部によって閉塞されることを特徴とする」(公報3欄18ないし26行)と記載されているから、この記載によると、本件特許発明を構成するモジュールは、幅方向に相補的でなければならず、腔の幅は、幅方向の寸法に関しては、壁部の幅に開放スロットの幅を加えたものと等しく、かつ開放スロットの幅は、他のモジュールの壁部の幅に等しいという関係を満たす必要があり、幅方向に相補的とするためには、壁部及び開放スロットの幅を腔の「半分」とすることよりも、むしろ開放スロットの幅が他のモジュールの壁部の幅に等しいとすることが強く要請されていると考えられる。そうすると、開放スロットの幅が他のモジュールの壁部の幅に等しいという関係を満足する限り、開放スロットの幅方向の寸法をどのように選択するかは設計上考慮しうる事項とすることも十分考えられるが、他方、本件明細書の発明の詳細な説明には、壁部の幅について「前記壁部のほぼ半分幅の寸法は、コネクタ相互の組合せ前に各コネクタの端部の接触子受承腔に挿入された接触子が該腔内に安全に保持される程度なら充分である。」(公報3欄27ないし30行)と記載されているから、この記載に照らすと、本件特許請求の範囲においては、各コネクタの端部の接触子受承腔に挿入された接触子が該腔内に安全に保持される程度の幅について、これを「ほぼ半分の幅」と表現したものと考えられる。このことは、当初明細書には「半分の幅」と記載されていたのが、後の手続補正により「ほぼ半分」と訂正されたことからも窺うことができる。

そして、前記の事実によれば、(1)ミドルハウジングの壁部19’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の一の幅であり、開放スロット18’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の二の幅であり、壁部23’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の二の幅であり、開放スロット22’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の一の幅であり、(2)ライトハウジングの一端部における壁部19’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の一の幅であり、開放スロット18’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の二の幅であり、また、(3)レフトハウジングの一端部における壁部23’の幅は孔8’の幅のほぼ三分の二の幅であり、開放スロット22’の幅が孔8’の幅のほぼ三分の一の幅であり、このような構成の被告製品においても、接触子を腔内に保持できる効果を奏するのであるから、被告製品の各壁部19’及び23’の幅並びに各開放スロット18’及び22’の幅は、構成要件(三)の、壁部19及び開放スロット18の幅が腔8の幅の「ほぼ半分の幅」との要件を充足しているということができる。

被告は、「ほぼ半分」の「ほぼ」とは製造工程上の誤差程度のものをいうと主張するが、製造工程上の誤差については「ほぼ」という表現がない場合にも当然に予定されるものであって、製造工程上の誤差(公差)を表現するためにことさらに「ほぼ」と表現したとは考えがたいから、被告の右主張は採用することができない。

二  争点1(二)(端部ハウジングにおける問題)について

1  まず争点1(二)(1)の、構成要件(二)ないし(五)に関し、被告モジュール形電気コネクタを構成する「該モジュール」は、その「両端部」に相補的部分を具備することを要するか否かについて、判断する。

本件特許請求の範囲には、「両端部間に、各電気接触子を収容するための少くとも二個の腔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料ブロックを含有するモジュールから成る電気コネクタにして」との記載に引き続いて「該モジュールの前記両端部が類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置を具えた・・・」と記載され、更に「前記両端部における腔8の前記半分幅の壁部19は前記モジュールの両側壁から内方に延出し」と記載されているから、右各記載に照らして考えると、構成要件(二)の「該モジュール」が両端部に相補的係合装置を具えた中間モジュール及びその構成を示していることは明らかである。このことは、右特許請求の範囲において、「該モジュールの前記両端部が類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するようになっている」や、「もって類似のモジュールの相補的部分と係合する時で、各モジュールの前記開放スロット18が相手方モジュールの前記半分幅の壁部19によって閉塞される」との記載において、相補的係合装置により係合する「類似のモジュール」との構造的、作用的関係を示すことにより、中間モジュールとしての構成を明確にしたものと考えられることからも明らかであるといわなければならない。

原告は、当時の技術水準、技術常識を参酌すると、類似のモジュールと係合固定することが存在しえないモジュール形電気コネクタの両端に位置するモジュールにおいては、その両端部に相補的係合部分を有することは要しないと解するのが合理的であるとしたうえ、構成要件(二)に「該モジュールの前記両端部」とあるのは、「該モジュールの、他のモジュールとの係合固定が問題となる端部」をいうと解すべきであるから、ライトハウジング又はレフトハウジングも構成要件(二)の「該モジュール」に該当する旨主張する。

しかしながら、仮に、本件特許発明出願当時の技術水準、技術常識に照らせば、モジュール形電気コネクタの端部に位置するモジュールがその一端部のみに相補的係合部分を有し、他端部に相補的係合部分を有しないことが明らかであるとしても、本件特許発明は、特許請求の範囲において、「・・・モジュールから成る電気コネクタ」であって「該モジュール」の「前記両端部が類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置を具え」ていることを明確に必須の要件としているのであり、また本件明細書の発明の詳細な説明においても、「実公昭五〇-四七〇五号は、各コネクタの両端部における壁をそれらの長手方向厚さが該コネクタ内の壁、すなわち中間壁の長手方向厚さの半分となるように長手方向に相補的に形成したコネクタを開示している。」「前記実公昭記載のコネクタの長手方向寸法をさらに小さくするためには、長手方向の壁厚をさらに薄くする必要がある。しかしながら中間壁の長手方向厚さの半分である両端部の壁厚をさらに薄くすることは・・・限界がある。」(本件公報2欄16ないし26行)、「本発明はかかる限界の問題を解決して、前記公知のモジュール形コネクタの長手方向寸法よりもさらに小さい寸法のモジュール形コネクタを供するものである。」(本件公報2欄27ないし30行)、あるいは、「本発明によるモジュール形電気コネクタにおいては、前記公知のものと異なって、両端部の壁の長手方向厚さは中間部の長手方向厚さと同一の寸法を有する。しかしながら、両端部の壁は、両端部の接触子受承用腔を完全に閉鎖せずに、該腔の横方向幅のほぼ半分の幅を有して該腔を部分的に閉鎖し、該腔の残部は開放されてスロットを形成している。従って、両端部の壁は中間壁と共に長手方向厚さを成形限界まで薄くすることができ、長手方向寸法が可能な限り小さいモジュール形電気コネクタを得ることができる。」(本件公報2欄31行ないし3欄4行)として、モジュール形電気コネクタを構成するモジュールの両端部の壁を幅方向に相補的に形成することによって、その長手方向の寸法を公知のものよりもかなり小さくしうることを特徴とするものであることを強調し、また、モジュールの両端部に設けられる「相補的係合装置」については、「スナップ係合する前記相補的係合装置はモジュールの前記一対の両端部のうちの一方の端部に一対の弾性的係止アームを、他方の端部に該係止アームと相補的な凹部を設けることが望ましい。」(本件公報3欄31ないし34行)等と説明しているのである。これに加えて、本件明細書の発明の詳細な説明の欄には、実施例について、「両端に位置するモジュール4、7は両者の中間に位置するモジュール5、6とは以下の点で相違する。すなわち、両端に位置するモジュール4、7の一方の端部には相補的な係合装置10、11が設けられ、他方の端部にはコネクターの両端を郭成するように形成された部分12を有し、同部分12は枠2の案内スロット13内に受承される。」「中間に位置するモジュール5、6の両端にはそれぞれ相補的にスナップ的に嵌合しうる係合装置10、11が形成される。」(4欄20ないし30行)、「異なった形態のモジュールを示す第六図」(4欄44ないし45行)と記載され、図面の簡単な説明の欄には、第六図はコネクタ組立体の端部を形成するモジュールである旨記載され、そして、第一図及び第六図には、コネクタ組立体の端部を形成する端部モジュールが図示されているのである。

このように、原告は、発明の詳細な説明においては、組立体を構成するモジュールについて、「中間に位置するモジュール」と「両端に位置するモジュール」との二種類が存することを意識し、両者を明確に区別しており、またモジュールの両端部に相補的係合装置を具えているものと、モジュールの一端部にのみ相補的係合装置を具えているものとではその作用効果が異なることが明らかであるにもかかわらず、本件特許請求の範囲には、前者についてのみ記載し、後者については、全く記載していないのであるから、原告は、本件特許請求の範囲から一端部にのみ相補的係合装置を具えるモジュールを意識的に除外したものと考えるほかはない。また、甲第四及び第九号証によれば、原告は、当初明細書においては、特許請求の範囲を「前記モジュールは類似のモジュールの相補的部分とぴったりと係合する係合装置を有するモジュール形電気コネクタ」としていたが、昭和五六年四月一〇日付け手続補正書により、前記のように「該モジュールの前記両端部が類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置を具えたモジュール形電気コネクタ」と訂正したものであることが認められ、この事実によれば、原告は、出願過程において、相補的係合装置を両端部に設けるものに意識的に限定したものとも認めることができる。

以上に認定した諸事実、殊に本件明細書の特許請求の範囲の記載、発明の詳細な説明の記載、出願過程における補正の経緯等の事実を考慮すると、構成要件(二)の「該モジュールの前記両端部」は、モジュールの両端部に相補的部分と相補的係合装置とが設けられていることを意味するというべきであり、原告の前記主張のように、構成要件(二)の「該モジュールの前記両端部」を「該モジュールの、他のモジュールとの係合固定が問題となる端部」の意味であると解釈すべき理由を見出すことはできない。

そして、ライトハウジングについては、その一端部に類似のモジュールであるミドルハウジング又はレフトハウジングの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置11’を具え、その他端部にコネクタ枠の案内スロット13’に受承される部分12’を有するものであることは当事者間に争いがなく、レフトハウジングについては、その一端部に類似のモジュールであるミドルハウジング又はライトハウジングの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置10’を具え、その他端部にコネクタ枠の案内スロット13’に受承される部分12’を有するものであることは当事者間に争いがないから、ライトハウジング又はレフトハウジングは、モジュールの両端部に相補的係合装置を具えるものでないことが明らかである。

以上のとおりであるから、ライトハウジング又はレフトハウジングは構成要件(二)の「該モジュール」に当たらないものというべきである。

2  争点1(二)(2)(均等論)について

また、原告は、本件特許発明の請求の範囲の「両端部」を「一端部」に置き換えることが可能であることを前提として、ライトハウジング又はレフトハウジングは本件特許発明と均等である旨主張するが、本件において、ライトハウジング又はレフトハウジングは、前記のとおり、そもそも相補的部分又は相補的係合装置を一端部にのみ有するモジュールであって、一端部においてのみ相補的に係合するに過ぎず、他端部においてコネクタ枠の案内スロットに受承されるという作用効果を有するものであるから、両端部に相補的部分又は相補的係合装置を有するモジュールがその両端部において他の類似のモジュールと相補的に係合する作用効果を奏するのに比して、その奏する作用効果が異なることは明らかであって、その構成においても、作用効果においても異なるものであるといわなければならないから、原告の前記主張はその前提を欠き、採用することができないものというほかはない。

三  争点1(三)(コネクタを構成するモジュール)について

被告は、本件特許請求の範囲にいう「モジュール形電気コネクタ」は、両端部に相補的係合装置を具備した中間モジュールのみによって構成されなければならない旨主張するので、判断する。

先ず、本件明細書の特許請求の範囲にいう「モジュール」の語の意味について検討するに、一般に「モジュール」とは、用語それ自体の意味として、全体の装置を構成するために、組合せが可能なように設計された単位構成物を意味することは明らかであるが、本件においても、本件特許請求の範囲に「モジュールから成る電気コネクタ」及び「相補的係合装置を具えたモジュール形電気コネクタ」と記載されていること、また右「モジュールから成る電気コネクタ」の「電気コネクタ」が特許請求の範囲末尾の「モジュール形電気コネクタ」と同義であると解されることに照らせば、「モジュール」が組立体としての「モジュール形電気コネクタ」を構成する単位構成物としての「モジュール」を意味することが明らかである。もっとも、本件明細書の発明の詳細な説明の記載中には、「コネクタ」なる語が「モジュール」を指し、あるいは「モジュール形電気コネクタ」を示す語として用いられている例がないではなく、用語としての統一を欠く感を否めないが(本件公報2欄2行ないし3欄30行)、いずれの意味で用いられているかは、その記載されている部分における技術的内容に応じて解釈されるべきものであり、右請求の範囲における「モジュール」の語の意味を左右するものではないというべきである。

次に、組立体としての「モジュール形電気コネクタ」が中間モジュールのみによって構成されなければならないかどうかを検討するに、構成要件(二)の「該モジュールの両端部」における「該モジュール」が、両端部に相補的係合装置を具えた中間モジュールを意味していることは先に判示したとおりであるが、本件特許請求の範囲には、「モジュール形電気コネクタ」が中間モジュールのみで構成される旨明示した記載はなく、かえって、「類似のモジュールの相補的部分とスナップ係合する」と記載されたり、「もって類似のモジュールの相補的部分と係合する時で」と記載されて、中間モジュールが類似のモジュールと係合することが予定され、そして、この「類似のモジュール」においては、中間モジュールとの係合部分のみが問題となることが明らかである。したがって、右の「類似」とは、モジュール間の係合部分の構成が相補的であれば足りるものというべきであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明には、中間モジュールのみならず、端部モジュールが示されていることは既に述べたとおりであるから、「類似のモジュール」は、中間モジュールのみならず、端部モジュールをも包含しているものというべきである。右「類似のモジュール」が端部モジュールを意識的に排除しているものと考えることはできない。

さらに、本件特許請求の範囲にいう「モジュール形電気コネクタ」が最少限どのようなモジュールによって構成されるかについて検討するに、本件特許請求の範囲にいう「モジュール形電気コネクタ」は、「類似のモジュールの相補的部分と係合する時で、各モジュールの前記開放スロット18が相手方モジュールの前記半分幅の壁部19によって閉塞されることを特徴とする」ものであること、中間モジュールは、その相補的係合装置の構成等において、前記のとおり、類似のモジュールと係合することが本件特許請求の範囲において予定されていること、本件明細書の発明の詳細な説明にも「類似のモジュールの相補的部分と係合する時に」(本件公報3欄23ないし24行)との記載があり、実施例として、一端部のみに相補的係合装置を具えた端部モジュールが示されていること(本件公報4欄20ないし28行)、願書に添付された図面の第一図によれば、モジュール形電気コネクタはその端部においてコネクタ枠の案内スロットに受承されており、中間モジュールのみで構成されるモジュール形電気コネクタは示されていないことが認められる。これらの点からすると、中間モジュールには類似のモジュールが必ず係合されることが予定され、本件特許発明にかかる「モジュール形電気コネクタ」は、少なくとも一個以上の中間モジュールと、両端に一個ずつの端部モジュールにより構成されるものというべきである。

右のとおり、モジュール形電気コネクタ(組立体)は、中間モジュールのみによって構成されるものではないから、被告の前記主張は採用することができない。

四  争点2(間接侵害)について

1  ミドルハウジングについて

甲第八号証及び弁論の全趣旨によれば、被告の製品カタログには、ミドルハウジングのみで構成されるモジュール形電気コネクタや、端部にミドルハウジングを使用したモジュール形電気コネクタは示されていないこと、ミドルハウジングを使用してモジュール形電気コネクタを形成する場合には、その両端にライトハウジングとレフトハウジングとを組み合わせる必要があることが認められ、右認定の事実によれば、ミドルハウジングは被告モジュール形電気コネクタの生産のためにのみ使用される物ということができる。

2  ライトハウジング及びレフトハウジングについて

甲第八号証及び弁論の全趣旨によれば、ライトハウジングとレフトハウジングとは、ミドルハウジングを中間に介在させることなく、互いに相補的部分と相補的係合装置で係合して、モジュール形電気コネクタを完成することが可能であることが認められる。

本件において、ライトハウジング及びレフトハウジングが構成要件(二)の「該モジュールの両端部」の「該モジュール」に該当しないことは前記のとおりであるのみならず、本件特許発明が中間に位置するモジュールを少なくとも一個有することを要件としていることは既に述べたとおりであるから、右ライトハウジングとレフトハウジングのみで構成され、中間モジュールを介在させることを要しないモジュール形電気コネクタは、本件特許発明の構成要件を充足しないことは明らかであり、したがって、ライトハウジングとレフトハウジングは、本件特許発明のモジュール形電気コネクタの生産にのみ使用される物に該当しないことも明らかであるといわなければならない。

五  争点3(損害額)について

1  実施料率について

甲第一〇号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件特許発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額(実施料)は、実施により販売される製品の売価の少なくとも五パーセントに相当する額であることが認められ、この事実と前記争いのない事実によれば、原告は、被告が昭和五六年七月一一日から平成四年三月三一日までの期間、ミドルハウジングを製造販売したことにより、前記ミドルハウジングの売上高に右実施料率を乗じた、(1)昭和五六年七月一一日から昭和六二年一月八日までの期間について二〇三万二九八一円、(2)昭和六二年一月九日から平成元年一二月三一日までの期間について六二万二七二二円、(3)平成二年一月一日から平成四年三月三一日までの期間について四一万一三四五円の損害(合計三〇六万七〇四八円)を被ったものというべきである。

2  弁護士費用について

原告が原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任したことは本件記録上明らかであるところ、本件事案の内容、本件訴訟の経過、認容額等に鑑み、被告の行為と相当因果関係にある損害として、被告に賠償を求めるべき弁護士費用の額は、金二五〇万円が相当であると認められる。

六  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、差止請求、損害賠償請求ともに、ミドルハウジングに関する部分について理由があるから、その限度でこれを認容することとし、その余の請求は理由がないから棄却することとする。

(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)

物件目録一

一 物品名

ミドルハウジング

二 図面の説明

第1図は、二個の孔を有するミドルハウジングの斜視図である。

三 構造

A 両端部(各モジュールを組み立てて完成されるモジュール形電気コネクタの長手方向における各モジュールの端部、以下同じ)間に、各電気接触子を収容するための二個または三個の孔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料から成るモジュールである。

B その両端部に、類似のモジュールたるミドルハウジング、レフトハウジングまたはライトハウジングの相補的部分とスナツプ係合するようになっている相補的係合装置10'および11'を具えている。

C その一端部における孔8'は、当該孔8'の幅のほぼ三分の一の幅まで延出する壁部19'によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20'の手前まで開口する、当該孔8'の全長と同一の長さでかつ孔8'の幅のほぼ三分の二の幅の開放スロツト18'を有し、該孔8'の下端部に隣接する下方部分は壁部24'により完全に包囲されるように閉塞されている。その他端部における孔8'は、当該孔8'の幅のほぼ三分の二の幅まで延出する壁部23'によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20'の手前まで開口する、当該孔8'の全長と同一の長さでかつ孔8'の幅のほぼ三分の一の幅の開放スロツト22'を有し、該孔8'の下端部に隣接する下方部分は壁部24'により完全に包囲されるように閉塞されている。

D その両端部における孔8'を部分的に包囲する壁部19'および23'は、当該モジュールの両側壁から内方に延出している。

E その一端部は、類似のモジュールであるミドルハウジングまたはレフトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロツト18'が相手方モジュールの前記ほぼ三分の二の幅の壁部23'によって閉塞され、その他端部は、類似のモジュールであるミドルハウジングまたはライトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロツト22'が相手方モジュールの前記ほぼ三分の一の幅の壁部19'によって閉塞される構造になっている。

第1図

〈省略〉

物件目録二

一 物品名

ライトハウジング

二 図面の説明

第2図は、二個の孔を有するライトハウジングの斜視図である。

三 構造

A 両端部間に、各電気接触子を収容するための二個または四個の孔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料から成るモジュールである。

B その一端部に、類似のモジュールたるレフトハウジングまたはミドルハウジングの相補的部分とスナツプ係合するようになっている相補的係合装置11'を具え、その他端部に、コネクタ枠の案内スロツト13'に受承される部分12'を有する。

C その一端部における孔8'は、当該孔8'の幅のほぼ三分の一の幅まで延出する壁部19'によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20'の手前まで開口する、当該孔8'の全長と同一の長さでかつ孔8'の幅のほぼ三分の二の幅の開放スロツト18'を有し、該孔8'の下端部に隣接する下方部分は壁部24'により完全に包囲されるように閉塞されている。

D その一端部における孔8'を部分的に包囲する壁部19'は、当該モジュールの側壁から内方に延出している。

E その一端部は、類似のモジュールであるミドルハウジングまたはレフトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロツト18'が相手方モジュールの前記ほぼ三分の二の幅の壁部23'によって閉塞される構造になっている。なお、その他端部は、類似のモジュールと係合される構造にはなっていない。

第2図

〈省略〉

物件目録三

一 物品名

レフトハウジング

二 図面の説明

第3図は、八個の孔を有するレフトハウジングの斜視図である。

三 構造

A 両端部間に、各電気接触子を収容するための四個または八個の孔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料から成るモジュールである。

B その一端部に、類似のモジュールたるライトハウジングまたはミドルハウジングの相補的部分とスナップ係合するようになっている相補的係合装置10'を具え、その他端部に、コネクタ枠の案内スロツト13'に受承される部分12'を有する。

C その一端部における孔8'は、当該孔8'の幅のほぼ三分の二の幅まで延出する壁部23'によって部分的に包囲されるように、電気接触子入口部から端子柱入口部20'(図示せず)の手前まで開口する、当該孔8'の全長と同一の長さでかつ該孔8'の幅のほぼ三分の一の幅の開放スロツト22'を有し、該孔8'の下端部に隣接する下方部分は壁部24'により完全に包囲されるように閉塞されている。

D その一端部における孔8'を部分的に包囲する壁部23'は、当該モジュールの側壁から内方に延出している。

E その一端部は、類似のモジュールであるミドルハウジングまたはライトハウジングの相補的部分と係合することにより当該モジュールの前記開放スロツト22'が相手方モジュールの前記ほぼ三分の一の幅の壁部19'によって閉塞される構造になっている。なお、その他端部は、類似のモジュールと係合される構造にはなっていない。

第3図

〈省略〉

別表 被告製品の売上状況

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭59-949

〈51〉Int.Cl.3H 01 R 13/514 識別記号 庁内整理番号 6661-5E 〈24〉〈44〉公告 昭和59年(1984)1月9日

発明の数 1

〈54〉モジユール形電気コネクタ

審判 昭57-4825

〈21〉特願 昭52-103300

〈22〉出願 昭52(1977)8月30日

〈55〉公開 昭53-53795

〈43〉昭53(1978)5月16日

優先権主張 〈32〉1976年10月23日〈33〉イギリス(GB)〈31〉44131/76

〈72〉発明者 山田啓視 横須賀市居2丁目12番1号

〈71〉出願人 アムブ・インコーボレーテツド アメリカ合衆国ベンシルバニア州 ハリスバーグ アイゼンハワー・ブールバード(番地なし)

〈74〉代理人 弁理士 山崎行造 外1名

〈56〉参考文献

実公 昭50-4705(JP、Y1)

〈57〉特許請求の範囲

1 両端部間に、各電気接触子を収容するための少くとも2個の腔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料ブロツクを含有するモジユールから成る電気コネクタにして、該モジユールの前記両端部が類似のモジユールの相補的部分とスナツブ係合するようになつている相補的係合装置を具えたモジユール形電気コネクタにおいて、/前記両端部における各腔8は、該腔8の幅のほぼ半分の幅まで延出する壁部19によつて部分的に包囲されるように、該腔8の幅のほぼ半分の幅の開放スロツト18を有し、前記両端部における腔8の前記半分幅の壁部19は前記モジユールの両側壁から内方に延出し、/もつて類似のモジユールの相補的部分と係合する時で、各モジユールの前記開放スロツト18が相手方モジユールの前記半分幅の壁部19によつて閉塞されることを特とするモジュール形電気コネクタ。

発明の詳細な説明

本発明はモジユール形電気コネクタに関する。

所望の大きさのコネクタを得るために、相互にスナツブ係合し、又は相互に固定されるモジユールから電気コネクタを形成することが従来から起されている。

一般に、この種のコネクタモジユールから成るコネクタ組立体は長手方向に小さい寸法を有することがしばしば要請される。かかる要請を満足させるために、長手方向における各モジユール中の電気接触子受承用腔の壁厚はできるだけ薄くすることが必要である。また、かかるコネクタ組立体は長手方向における前記腔のピツチすなわちすべての腔の間隔が一定になるように組立てられる必要がある。

実公昭50-4705号は、各コネクタの両端部における壁をそれらの長手方向厚さが該コネクタ内の壁、すなわち中間壁の長手方向厚さの半分となるように長手方向に相補的に形成したコネクタを開示している。

前記実公昭記載のコネクタの長手方向寸法をさらに小さくするためには、長手方向の壁厚をさらに薄くする必要がある。しかしながら、中間壁の長手方向厚さの半分である両端部の壁厚をさらに薄くすることは成形材料のれ特性、破損の防止及び絶縁性の保持の点で限界がある。

本発明は、かかる限界の問題を解決して、前記公知のモジユール形コネクタの長手方向寸法よりもさらに小さい寸法のモジユール形コネクタを供するものである。

本発明によるモジユール形コネクタにおいては、前記公知のものと異なつて、両端部の壁の長手方向厚さは中間壁の長手方向厚さと同一の寸法を有する。しかしながら、両端部の壁は、両端部の接触子受承用腔を完全に閉鎖せずに、該腔の横方向幅のほぼ半分の幅を有して該腔を部分的に閉鎖し、該腔の残部は開放されてスロツトを形成している。従つて、両端部の壁は中間壁と共に長手方向厚さを成形限界まで薄くすることができ、長手方向寸法が可能な限り小さいモジユール形コネクタを得ることができる。

このように、本発明は、コネクタの両端部の壁を、前記公知のコネクタのように長手方向に相補的に形成する代りに、幅方向に相補的に形成することによつて、コネクタの長手方向寸法を前記公知のコネクタに比較してかなり小さくなしうる利点を有する。

本発明によれば、両端部間に、各電気接触子を収容するための少くとも2個の腔を有するほぼ直方体状の弾性絶縁材料ブロツクを含有するモジユールから成る電気コネクタにして、該モジユールの前記両端部が類似のモジユールの相補的部分とスナツブ係合するようになつている相補的係合装置を具えたモジユール形電気コネクタにおいて、前記両端部における各腔は、該腔の幅のほぼ半分の幅まで延出する壁部によつて部分的に包囲されるように、該腔の幅のほぼ半分の幅の開放スロツトを有し、前記両端部における腔の前記半分幅の壁部は前記モジユールの両側壁から内方に延出し、もつて類似のモジユールの相補的部分と係合する時に、各モジユールの前記開放スロツトが相手方モジユールの前記半分幅の壁部によつて閉塞されることを特とするモジユール形電気コネクタが与えられる。前記壁部のほぼ半分幅の寸法は、コネクタ相互の組合せ前に各コネクタの端部の接触子受承腔に挿入された接触子が該腔内に安全に保持される程度なら充分である。

スナツブ係合する前記相補的係合装置はモジユールの前記1対の両端部のうちの一方の端部に1対の弾性的係止アームを、他方の端部に該係止アームと相補的な凹部を設けることが望ましい。かかる凹部にはアームに関して横方向に延在し、アームの横方向溝と係合しうる適当なリブが設けられる。

隣接するモジユール相互が横方向に運動しえないように凹部に上部肩部及び下部肩部を設けて、上部肩部と下部肩部が係止アームの上側部と下側部に各々係合するように形成するのが好ましい。好ましくは、肩部は各凹部に1個、すなわち一方の凹部の下側部に1個、他方の凹部の上側部に1個ずつ設けられる。

以下に、本発明を実施例について図面を参照しながら説明する。

第1図に示す組立体は展開して図示されている8個のモジユールから成るモジユール形コネクタ1を含有する。モジユール形コネクタ1は一列の端子柱3を具えるコネクタ枠2と係合しうるようになつてり、前記端子柱3はコネクタ1の接触子受承腔8に収容された電気接触子9内に、前記腔8の下方の端子柱入口部20(第2図参照)を通つて挿入されうる。前記腔8は下端に肩部21を具えて該腔8への前記接触子9の挿入を停止させる。

各コネクタ・モジユール4、5、6、7は少くとも2個の接触子受承腔8を有し、該腔は公知の方法で前記接触子9を取外し可能に受承しうる。

コネクタ1は4個の腔8を有する1個のモジユール4、2個の腔8を各有する4個のモジユール5、3個の腔8を各有する2個のモジユール6、及び2個の腔8を有する1個のモジユール7を含有する。両端に位置するモジユール4、7は両者の中間に位置するモジユール5、6とは以下の点で相違する。すなわち、両端に位置するモジユール4、7の一方の端部には相補的な係合装置10、11が設けられ、他方の端部にはコネクタ1の両端を郭成するように形成された部分12を有し、同部分12は枠2の案内スロツト13内に受承される。

中間に位置するモジユール5、6の両端にはそれぞれ相補的にスナツブ的に嵌合しうる係合装置10、11が形成される。係合装置10、11の形状は第2図乃至第5図に更に詳細に示されている。モジユールの一方の端部は1対の弾力的な係止アーム11を有し、両アーム11の対向面には橫方向の溝14が設けられる。モジユールの他方の端部は係止アーム11と相補的な1対の凹部10を有し、該凹部10は前記溝14に嵌合しうる横方向リブ15を具えもつて1個のモジユールのアーム11を隣接するモジユールの凹部10内にスナツブ的に嵌合させうる。前記1対の凹部10のうち、第2図において、見える方の凹部10は下部肩部16を有し、見えない方の凹部10は上部肩部17を具えるが、該上部肩郎17は第3図、第5図、及び異つた形態のモジユールを示す第6図に明示される。このように、肩部16、17はモジユール相互が横方向に運動しえないようにするために隣接するモジユールの係止アームの上部及び下部と係合しうるように形成される。

第2図に示されるように、相互にスナツブ係合する係合装置、すなわち凹部10、アーム11に近接する接触子受承腔8はスロツト18を有する。スロツト18は腔8の全長に及び、かつ腔8の幅のほぼ半分の幅を占める。1対のスロツト18はモジユールのそれぞれの側壁に近接してそれぞれの前記腔8に設けられ、該腔8の幅の残りのほぼ半分幅を壁部19が占める。

隣接するモジユールを第1図に示すように相互に連結した場合、腔8の幅のほぼ半分の幅を具える壁部19が隣接するモジユールのスロツト18を閉塞するので、互いに隣接するモジユールの腔8と腔8とは1個の壁部の厚さを保つて相互に離隔する。

従つて、接触子相互間の間隔をコネクタ1の長手方向に亘つて一定に維持することが可能となる。

上述の実施例においては、スロツト18が腔8の全長を超えて端子柱入口部20に連通するように図示されているが、該入口部近くで終るように形成されうることは容易に理解できよう。

図面の簡単な説明

第1図はモジユール形コネクタ組立体の斜視図にして、各モジユール及び電気接触子を互いに分解した状態で示し、第2図は第1図に示すコネクタの二腔モジユールの拡大斜視図、第3図は同モジユールの拡大平面図、第4図は同モジユールの拡大側面図、第5図は同モジユールの拡大底面図、及び第6図はコネクタ組立体の端部を形成する腔モジユールの斜視図である。

1……モジユール形コネクタ、4、5、6、7……モジユール、8……接触子受承腔、9……接触子、10……凹部、11……アーム、18……スロツト、19……壁部。

FIG.2

〈省略〉

FIG.3

〈省略〉

FIG.4

〈省略〉

FIG.5

〈省略〉

FIG.6

〈省略〉

FIG.1

〈省略〉

特許公報

〈省略〉

〈省略〉

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